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大阪地方裁判所 昭和51年(わ)414号 判決

本籍

山口県萩市大字棒東九八一番地

住居

大阪府箕面市桜一丁目九番一六号

遊技場経営並びに会社役員

日隈広吉

大正一〇年五月二五日生

本店所在地

大阪市福島区福島二丁目八番一七号

商号

株式会社 新橋

代表者

代表取締役 日隈広吉

右日隈広吉に対する所得税法違反・法人税法違反、右株式会社新橋に対する法人税法違反各被告事件につき、当裁判所は検察官足達襄出席のうえ審理を遂げ、次のとおり判決する。

主文

被告人日隈広吉を懲役一〇月および罰金二、〇〇〇万円に、

被告法人株式会社新橋を罰金六〇〇万円に、

それぞれ処する。

被告人日隈広吉に対し、この裁判確定の日から二年間右懲役刑の執行を猶予する。

被告人日隈広吉において、その罰金を完納することができないときは、金五万円を一日に換算した期間同被告人を労役場に留置する。

理由

(罪となるべき事実)

第一  被告人日隈広吉は、西宮市津門呉羽町二番三五号などにおいてパチンコ遊技場等を経営しているものであるが、自己の所得税を免れようと企て、

一  昭和四七年分の所得金額が三三、一七万四、四二六円で、これに対する所得税額が一六、〇九万九、五〇〇円であるのにかかわらず、公表経理上売上の一部を除外するなどの行為により、右所得金額中二五、六八万一、六五五円を秘匿したうえ、昭和四八年三月一五日、大阪府福島区玉川二丁目一二番二八号所在大阪福島税務署において、同税務署長に対し、昭和四七年分の所得金額が七、四九万二、七七一円で、これに対する所得税額が一、七二万四、一〇〇円である旨の虚偽の所得税確定申告書を提出し、もつて不正の行為により所得税一四、三七万五、四〇〇円を免れ、

二  昭和四八年分の所得金額が四七、八〇万八、八四一円で、これに対する所得税額が二五、〇六万八、三〇〇円であるのにかかわらず、前同様の行為により、右所得金額中四〇、七六万五、三二三円を秘匿したうえ、昭和四九年三月一四日、前記大阪福島税務署において、同税務署長に対し、昭和四八年分の所得金額が七、〇四万三、五一八円で、これに対する所得税額が一、三八万一、七〇〇円である旨の虚偽の所得税確定申告書を提出し、もつて不正の行為により所得税二三、六八万六、六〇〇円を免れ、

三  昭和四九年分の所得金額が一億〇二、二四万三、二一二円で、これに対する所得税額が六〇、八七万七、七〇〇円であるのにかかわらず、前同様の行為により、右所得金額中七〇、一八万五、五一〇円を秘匿したうえ、昭和五〇年三月一五日、前記大阪福島税務署において、同税務署長に対し、昭和四九年分の所得金額が三二、〇五万七、七〇二円で、これに対する所得税額が一二、六〇万二、三〇〇円である旨の虚偽の所得税確定申告書を提出し、もつて不正の行為により所得税四八、二七万五、四〇〇円を免れ、

第二  被告法人株式会社新橋は大阪市福島区川上町一二番地平田ビル内に本店をおき(当時)パチンコ遊技場等を経営しているもの、被告人日隈広吉は同会社の代表取締役としてその業務全般を統括しているものであるが、被告人日隈広吉は、同会社の業務に関し、法人税を免れようと企て、

一  被告法人株式会社新橋の昭和四八年一月一日から同年一二月三一日までの事業年度において、その所得金額が四八、五三万五、七三〇円で、これに対する法人税額が一七、五七万四、一〇〇円であるのにかかわらず、公表経理上売上の一部を除外するなどの行為により、右所得金額の全額を秘匿したうえ、昭和四九年二月二八日、前記大阪福島税務署において、同税務署長に対し、右事業年度の所得金額が零円で、納付すべき法人税額は無い旨の虚偽の法人税確定申告書を提出し、もつて不正の行為により法人税一七、五七万四、一〇〇円を免れ、

二  被告法人株式会社新橋の昭和四九年一月一日から同年一二月三一日までの事業年度において、その所得金額が五四、三六万五、六二二円で、これに対する法人税額が二〇、四二万八、〇〇〇円であるのにかかわらず、前同様の行為により、右所得金額中四六、五八万二、〇五三円を秘匿したうえ、昭和五〇年二月二八日、前記福島税務署において、同税務署長に対し、右事業年度の所得金額が七、七八万三、五六九円で、これに対する法人税額が一、七九万五、二〇〇円である旨の虚偽の法人税確定申告書を提出し、もつて不正の行為により法人税一八、六三万二、八〇〇円を免れ

たものである。

(証拠の標目)

判示各事実につき

一、被告人兼被告法人代表者日隈広吉の当公判廷における供述、検察官に対する各供述調書、大蔵事務官に対する各質問てん末書

一、同人作成の各確認書

一、岩本嘉明作成の各確認書

判示第一の各事実につき

一、白井一義の検察官に対する供述調書、大蔵事務官に対する各質問てん末書

一、山中康世、長尾儀広、伊藤修司、赤嶺ヨシ子の大蔵事務官に対する各質問てん末書

一、平田勇、織田勝人、山中康世(一一丁綴のもの)、宮田方三、曾根川富男、高桑文夫、山本和雄、渡辺兼光、藤本年夫、大石経雄、赤岩幸男、山崎吉彦(昭和五〇年三月一八日付)、桜井藤喜男(同日付)作成の各確認書

一、久野誠一作成の供述書

一、大阪福島税務署、家永吉紹、株式会社ヤナセ大阪支店、田中良平、株式会社東北牧場、伊藤修司、村下良一、斉藤隆、川井豊、鎌田正人作成の各回答書

一、国税査察官大田勇吉、鈴木滋作成の各査察官調査書

一、大阪福島税務署長作成の各証明書(被告人日隈広吉の各所得税確定申告書および青色申告承認、同取消についてのもの)

一、押収してある総勘定元帳一冊、振替伝票一綴、申告書控等一綴、競走馬関係書類三綴、預託料等請求受取明細書一綴、営業成績一覧表二綴、精算書控一冊(昭和五一年押第八六七号の1ないし10)

判示第二の各事実につき

一、武富宏、小川敏正、高井健、平田千代の検察官に対する各供述調書、大蔵事務官に対する各質問てん末書

一、武富宏、小川敏正、高井健、山崎吉彦(昭和五〇年五月二九日付)、本田登、山中康世(一六丁綴のもの)、桜井藤喜男(同月一二日付)作成の各確認書

一、米田義明作成の供述書

一、国税査察官平岡敬蔵、川本吉之助作成の各査察官調査書

一、大阪福島税務署長作成の各証明書(被告法人株式会社新橋の各法人税確定申告書および青色申告承認取消についてのもの)

一、被告法人株式会社新橋の登記簿謄本、定款写

一、押収してある手帳一冊、集金帳一冊、ノート一冊、時統計一綴、元帳一綴、振替伝票一綴(前同押号の11ないし16)

(弁護人の主張に対する判断)

弁護人は、「被告法人株式会社新橋は、昭和四九年四月頃、一、三〇〇万円を出資して新大阪駅地下構内で喫茶店を営む出店権を買受けたが、その後右出店権が滅失し、資産の滅失を生じたものであり、仮に然らずとするも、右出資金一、三〇〇万円の回収が不能となり、同額の雑損を生じたものであるから、同被告法人の昭和四九年事業年度における犯則所得金額については、判示第二の二の認定額より一、三〇〇万円減額さるべきである」旨主張するのであるが、被告法人代表者日隈広吉ならびに証人平田千代の当公判廷における各供述のほか判示第二の各事実についての前掲各証拠を総合すると、被告法人株式会社新橋の代表者である日隈広吉は、平田千代の勤めにより、同被告法人において新大阪駅地下構内に進出し同所で喫茶店を開業しようと図り、そのため、昭和四九年四月二八日頃、一、三〇〇万円の保証小切手を、平田千代を通じ、同所に出店権を有する新大阪駅の旧地主団体の一員である高橋渡に渡したものの、その後法人成りした右旧地主団体(新大阪企業株式会社)の代表者河合潤郎において右出店権等を第三者に売渡してしまつたため、同被告法人としては右出店権を取得することができなかつた(従つて、一且取得した出店権がその後滅失したということもありえない)こと、一方、右の一、三〇〇万円については、その頃高橋渡が死亡してしまつたこともあつて、その後の行方があいまいになつているのではあるが、同被告法人としては、昭和四九年事業年度の決算書にこれを預け保証金として資産に計上し、平田千代ないし高橋渡の相続人らに対し積極的にその返済を求める手続もとつておらず、いまだ回収不能とはいい難い状況にある(因に、仮に回収不能とするも、損金経理がないので、損金に算入することはできない)ことが明らかであるから、弁護人の右主張はいずれもこれを採用することができない。

(法令の適用)

被告人日隈広吉につき

判示第一の各所為

各所得税法二三八条一項、二項(いずれも懲役と罰金を併料)

判示第二の各所為

各法人税法一五九条一項(いずれも懲役刑選択)

併合罪処理

刑法四五条前段の併合罪、懲役刑につき同法四七条本文、一〇条(犯情の最も重い判示第一の三の罪の刑に法定の加重)、罰金刑につき同法四八条二項

懲役刑の執行猶予

同法二五条一項

労役場留置

同法一八条

被告法人株式会社新橋につき

判示第二の各所為

各法人税法一五九条一項、一六四条一項

併合罪処理

刑法四五条前段、四八条二項

よつて主文のとおり判決する。

(裁判官 栗原宏武)

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